真夏兎の跳ねる庭

ゲームの実況動画を投稿している女性配信者です。アクション系やホラーを中心に、世界観や雰囲気重視で、良質な物語との出逢いを日々求め中。

ハクメイとミコチ 10巻感想(74話)


あなたは、どんな暮らしを送っているだろうか。

 

どんな職業に就き、あるいは学生生活を送り、

だれと暮らし、あるいはひとりで暮らし、

どんな場所に住み、窓の外には何が見えて、何が聴こえるだろうか?


一応、ドーナツである私にも日常というものがある。
朝に目覚め、昼に働き、夜に眠る。
そのサイクルをずっと繰り返す――それが基本的な生活パターン。


遠くの街へ行くことは稀だけれど、
こうして遠くに住んでいるあなたの目に留まり、
あるいは配信を通して、たまにはあなたの話を聞かせてもらえる機会もあるかもしれない。

 

さて、今夜お話したいのは、そんな日常を描いた、とあるコミックスのお話。


その物語には私のようなドーナツこそ登場しないけれど(お菓子は出てくるかな?w)、一部を除いてほとんどの動物たちが人語を介し、街を築き、それぞれに仕事をし、たまには冗談を言い合いながら、美味しいごはんに舌鼓を打つ生活を送っている――そんな世界の物語。


ハクメイとミコチ


最新刊(第10巻)がこのたび発売されました~!!!

私たちでいう「人間」が「小人」に置き換わり、動植物は原寸サイズというスケールの野性味あふれる世界での、彼らの暮らしを描いている作品です。

 

タイトルになっている「ハクメイ」と「ミコチ」はともに主役の小人たちの名前で、物語は主にこのふたりにまつわるお話だったり、彼らが知り合っていく友人たちのお話だったりという群像劇風。


なんといっても特徴は、緻密に書き込まれたその圧倒的な作り込み!!!

 

街並みだったり、夕陽や大自然を生かした世界観の風景や画面の美しさだけではなくて、建物だったら建材や建築法、食べ物なら料理や調理法ときには食器にまで及んだり、洋服だったら生地や地方ごとの風土的な特徴、個人だったらその個人の過去未来現在にゆかりのある人や、そのひとが携わるエピソードなど、……もう本当に、多岐に渡る設定や隠れたストーリーがとにかく多いし細かいしで面白いしで、大好きなんですよね(笑)


小指サイズの小人ならではの目線から見る世界は、とにかく新鮮。
そこはもう普通に暮らしているだけなので、彼らがやっていることに目新しさだったり、魔法が使えたりといった特別なコトも無いのに、ひとたびエピソードとして語られると途端に魅力的でキラキラとみえてしまう不思議……。
そして大体、お腹が空いてしまう(笑)


食べ物の匂いや街の匂い。
音楽や歌、耳に届く、風の音。
太陽のあたたかさや、なんだったら水や土の香りまで漂ってきそうなほどに濃密で、
本当にありふれたことでしかないのに、とにかくドラマティックで、でもホッとさせてくれるような時間が過ぎていくのを感じます。


私は『ARIA』(天野こずえ先生)のファンでもあるのですが、
作品を通して感じるものというのは、ごく近しいのかもしれないです。
でも、このハクミコで描かれる日常は、実家のような安心感というか、
生活感や生活臭といった部分がより一層つよくて、
より身近なところで感じられるような感覚……。

ウンディーネたちの日常も、とても親近感の湧くものではあるけれど、そこはやはり彼女たち自身の存在自体が儚いやえなか奇跡の如く、という印象が強すぎて(笑)


そんな物語も、色んな人との出会いや、その出会いがゆっくりと育まれ、年月を経て成熟していくのを見守るような気持ちで気付けば第10巻……。
もう、どこから読んでもどのエピソードもすごく好きだけれど、
やっぱり1巻から順々に読み進めて積み上げていく読み方をしてこそのこの巻、という感じでした。


もしも未読の方がいらっしゃいましたら、超絶オススメいたします。
「丁寧に暮らす」ということ、「豊かに暮らす」という意味が、
この物語には詰まっています。

 


※以下は各エピソードの感想となりますので、ネタバレ注意

 

◆第74話「雨宿りと鼻歌」

通り雨に遭ってしまった歌姫のコンジュが、雨宿りした軒先で偶然ハクメイに会う話。


まさにリアルタイムで考えていたテーマだったので、ドンピシャで刺さったエピソードです(笑)
端的にいうと、歌ってどうやったら上手になれるの???ってw
そんな思いを常々抱える私とはまったくベクトルの異なるハクメイなのだけれど……


……いやぁ、わかるんだよね~、、、って(笑)
歌うのは好きだけど、人前で歌えるほどじゃ全然ないと自覚しているから、頑なに歌いたくないその気持ち……でも、歌うこと自体は、好きなんだよぉぉ、っていうアレ(笑)

 

だからこそ、稀代の歌姫(自称?w)コンジュが、友人としても、歌姫という立場からにしても、ハクメイに歌を教えたくなっちゃう気持ちもすごーくわかるし、ハクメイもハクメイで、断れずに教えてもらう気持ちもわかる……(ただ、ハクメイは歌が上手になりたくて教えてもらうわけではない、というのがミソかなとも思う)。

 

野生動物がちょっとずつ警戒を解いて歩み寄ろうとするが如くのハクメイの様子に、コンジュがかけた「あら いとしい」が分かりすぎてつらい。。。
がんばろうとする姿や気持ち、そういう部分を汲めるひとなのですよ、コンジュさん。
生来のにぎやかで華やかな性格や、妙にセンには甘え絡んでいく様子だったり(いいぞもっとおねがいします)、そういう印象があるかと思えば、こういうふとした優しさとか余裕が垣間見えるシーンが、歌うと一瞬にして他者を魅了することに加えて、稀代の歌姫たる由縁か……いやこのギャップが実に効くのでござるよ。。。


自分を自分らしく表現できるナニカに気付けるというのは、とても幸せなことだと思う。
別にそれを仕事にしていようといまいと、シュミだけにとどめていようとかまわない。
他者に気付かれようと気付かれまいと、自分を自分たらしめるものを、自分が識っているということ。大事なのはその点。

 

コンジュの場合それは歌で、つまりは世界(他者)と自分とを繋げるためのツールでもあり、こうしたものに気付くことのできるひとがこの世界に一体どれだけ居るだろう?
強制されるわけでもなく、自然と自分にはこれなんだという確かなものを得られるのは、特別な人間に限ってのことなのだろうか?
(あまりに陳腐な話ではあるけれど、やはり憧れというものは在る)

だからそれを獲得できる者、まるで生まれながらに目に見えない特別なシルシを額に持つかのような彼らは、もとから特別な才能を具えているのだろうか?


でもコンジュは実に彼女らしく、語ってくれる。


「私は知りたがりで 言いたがりって事ですわ」


曰く、お喋りの延長。
それは相手を知りたい、ということから始まったこと。
自分のことを伝えたい、とも思ったから、おばあさまとの間に「歌」というそれを見出すこともできた。

 

本質が、ここだなぁと思ったわけです。
「対話」。一方的に自分のことを伝えたい、ではなく、相手を知りたいと思う、
どこかで共通点を見つけよう、共通項を持とう――その気持ちとセットでないと意味がなくて。決して見つけることなど、できない、もの。


だれかが褒めてくれたから、とか、人によってきっかけは異なるだろうけれど、コンジュの場合はそうだった。

この話の冒頭、私自身、上手に歌うには??と思い悩んでいた話、
ほかの方の歌と比較して何が違っていたのか……まぁ、テクニックだとか声量だとか諸々何もかもなんだけれどもね?(笑)
それでも、こうしたちょっとした秘訣、じゃないけど、トクベツなひとのちょっとした胸の内を知ると、気持ち的なものが動くのを感じてしまうのです。
ほんの少し意識が変わったくらいで簡単にナニカが劇的に変わるわけではないし、
仮に「それ」を見つけた後も下積みや訓練と時間をかけて磨いていくものなのだろうとは思うけれど、それでも。

 

それにしても、タイミングがすごかった……(笑)

しかもその内容を専門家であるコンジュから聴けるなんて、ていうw

本当にそういう意味でも、コンジュは生まれながらの歌姫なんだなぁと、このエピソードを通してまた少し人柄に触れることで思ったりもして……まぁ、今までのエピソードでも何度となく思ってることだけれども。

でも毎回そう思わせてくれるのが、稀代の歌姫!

 


ところで。
ラストでハクメイとコンジュがふたりで歌うシーン、あの見開き最高だったなぁ……。時が止まったかのような感覚。雨粒が綺麗すぎる……。

あのひととき、歌声も雨に混じって、世界が歌声に満ちていくようで。

またコンジュがハクメイの横顔をチラッと見てる風なのがすごく良い……。
あと、オチがいつもながら秀逸(笑) 

関連して「足下の歩き方」。
今回のハクメイとコンジュにしろ、歌を偶然聴いてた作家のアマキさんにしても、こういうちょっとした誰かの日常が別の誰かの日常にリンクして、新しい何かが生まれるきっかけとなるこうした不思議な連鎖こそ、まさにハクミコの醍醐味だなぁって。

毎回どのエピソード読んでも絶対思うけど(笑)、良いお話でございました。

 

いざ書いてみたら1話でこの長さ(笑)
つづきはまた別の日に♪